2015年4月8日水曜日

アメリカ体験記 - 2: 続・シカゴ警察 会員番号827番 - 友達は選ぼう

前回の続きを書こうと思う。


”ガチャリ、ガチャリ”

と、テレビや映画でたまに聞く音。
冷たく、固く、重い何かが、後ろに回された両手首にはめられた。
それが手錠だと、すぐに分かった。

周りを見ると、何十人もの見物人。背後にはどうやら二人いる様だ。そう、ジーンズにTシャツの筋肉質のこの男二人は、私服警官だった。

”こっちに来い” と、後ろ手をつかまれたまま、直ぐ近くに停めてあったパトカーの後部座席へ。

”狭い...”。前後の席の間には、上部が鉄の格子になっている間仕切りがあり、真っ直ぐにきちんと足を揃えて座ると、ひざがそれにぶつかってしまう。両足揃えて、俗にいうお姉さん座りもちょっとおかしいので、足を開いて座るしかない。

後ろ手に手錠、両足を大きく開いて座席の背もたれにもたれかかる。
どう見ても ”ザ・犯罪者” である。

後部座席イメージ

しかし、実はとても冷静だった。アルコールは飲んでいたが、特に酔っている訳でもなく、自分は何も法を侵す様な事はしていない。走り出したパトカーの中で、柵の向こうに見える黒光りしたショットガンを眺めていると、

”何があったんだ?” 助手席の警官が尋ねた。

”車のドアを開けたら、たまたまちょっとぶつかってしまって。そしたらあっちの運転手が、急に降りて来て殴りかかって来たんです。僕は手を出していませんよ。”

”殴られたのか?”

”首に当たりました。とにかく、僕は何もしていないんですけど。”

場の空気を和ます為にも、”やれやれ” という感じで、ゆっくりと話した。
20年程前の話なので今はどう変わったか分からないが、残念ながら、白人ともめ事になば、シカゴでは有色人種が不利だった。殴りかかって来た白人の男は、そのままバーに飲みに行ったらしい。

100メートル程走った後パトカーは角を曲がり、誰もいない墓地の横の路上で停車した。

確か、ここの辺りだと思う。




”降りな。” と言われパトカーから降ろされた。一人が自分のポケットを探りながら後ろに来て、手錠のついた腕を軽く引っ張った。

”お、はずしてもらえるのか。そりゃそうだよな、何もしていないし。” と思いホッとしていると、
その警官がもう一人の警官に、

”チッ、手錠の鍵を忘れちまった。お前持ってるか?” と。
”いやー、俺も持ってないぜ。”

え~っと・・・もしこの場で僕が急に心臓発作を起こしたり、急に隕石が落ちて来たり、又はとっても頭が痒くなったりした場合・・・どうするおつもりですかね? など、イライラしだした警官二人に聞ける訳もなく、かかしの様に静かに立っていた。

”今、無線で手錠のカギを持って来てくれる様に頼んだから、もう少し待ってろ。” と何故か命令されたので、
”Yes, Sir." と、一応丁寧に答えておいた。

と、そこへ、二つのヘッドライトが角を曲がってこちらへやって来た。”お、早いじゃん!” と少し喜んだが、よく見るとかなりスポーティーな車。

”なんだ、山崎か。でも、見捨てないでついて来てくれたのね。さっきは迎えに来ない方が女の子二人と楽しめるかも、とか思ってごめんよー” と思っていると、近くまで来て止まった彼の車から、女の子の一人が降りて来て、遠目から少し大きな声で日本語で僕に話しかけてきた。

”ねー、何かしたの?何もしてないよね?私、この前大学の授業で習ったんだけど、アメリカで手錠をかける時はその前にきちんと理由を伝えてからじゃないといけないんだよ。理由言われた? なんなのこれ!? 許せない!”

”いや、でも、今手錠を、”

”信じられない!”

”いや、手錠のカギをさ、”

冷静な僕を横目に、憤慨したその子は、警官の一人に英語で荒々しく文句を言いだした。

”うるさい。あっちに行ってろ。お前たち、これから話す時は俺たちが内容が分かる様に英語で話せ!”

”何言ってるの!だから、手錠をかけた理由をちゃんと伝えたの!?”  その子が英語で問いただした。

”うるさい、あっちへ行ってろ!”

警官の言葉を無視し、その子は持っていたデジカメで、パトカーのナンバープレートを撮り始めたではないか。

いや、今手錠のカギを待っているだけだから、事を荒立てないで~~~~という思いもむなしく、

”何してるんだ!あっちへ行け!よし、それまでだ!” と警官の一人が僕の後ろ手をつかみ、まだ少し自分の温もりが残る、懐かしい後部座席へと押し込んだ。

そして、パトカーは急発進・・・

昼間でも来た事のない場所は、夜見るとただの暗闇。15分程走っただろうか。パトカーが止まった場所は、とある警察署だった。

署内に連行され、廊下の突当りにある、コンクリートブロックで囲まれた3畳程の広さの小さな場所へ連れて行かれた。壁には手すりが付いていて、その下には木のベンチ。 ”なるほど、待合室か。手すりを付けてあるなんて、お年寄りに優しい設計だ。今後プロジェクトの参考にしよう。” と感心していると、後ろ手の手錠を外された。やっと自由になれた! と思ったのもつかの間、

”ガキーン!” 手錠の片側は、ツルツルの鉄の手すりに。

”ガチャリ” もう一方は、スベスベの僕のお手てに。

ふ~・・・

少しすると、見るからに常に問題を起こしそうな風貌の、同い年ぐらいのアジア人の仲間が出来た。お互い初対面な上にシャイなので、黙って手すりに繋がれていた。

それ程長くない廊下の反対側には部屋があり、そこから大きな笑い声が聞こえる。

”バシーン!バシーン!” 笑い声の間に聞こえる何かを思いきり叩く音。

そして、そこから眼鏡をかけた、家にいたら絶対かさばりそうなサイズの太った警官が、のしのしとこちらに向かって歩いて来た。ん?何か手に持っている?あ、それ、知ってる!日本で中学生の時に友達と近所の裏山で拾ったエロ本でも見たし、今住んでいるアパートの傍にある、ハードゲイ用のアダルトグッズストアのショーウィンドーでも見た!

それっ、

皮で出来た、SMプレー用のお尻叩くやつじゃん・・・

- 参考資料 -



その太った警官は、尻叩き棒で壁をバシバシ叩きながら近くまで来て、まずは後から来たアジア人に、

”お前、前にも見たな。今度は何した?このタトゥー覚えてるぞ。他にもあるか?” 等と低い声で尋問をし、その後、ジロリと僕を見るとこちらに歩いてきた。

”お前はタトゥーはあるか?” 

と低い声で顔を近づけて来た時に何か匂った。
”ゲ、この警官、酒飲んでるんじゃないか?” 

”いえ、ありません。”

ジロジロと人の顔を見た後、
”なんだこの眉毛は!こんな風に整って眉毛は生えない!何かしてるな!?”

昔から眉毛が太いので、色気づいてからは整えてはいたが、まさか警察沙汰になるとは。

”で、お前は何をした?”
”何もしていません。”
”何もしていない奴はここへは来ない!”
ごもっとも・・・

その太った警官は元いた部屋に戻り、遠くから ”おい、あそこにいる背の高いの、何でここにいるんだ?” と尋ねているのが聞こえた。



のし、のし、とまた僕の所に戻って来た警官は言った、

”お前の友達が、お前がここに来た理由だ。良い友達を持ったな、ハッハー。”




次回、続・シカゴ警察 会員番号827番 - 届きそうで届かない場所



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