2015年4月9日木曜日

アメリカ体験記 - 2: 続・シカゴ警察 会員番号827番 - 届きそうで届かない場所

では、仕事そっちのけで前回の続きを。

警察に反抗した女友達が原因で、なぜか鉄の手すりと手を繋いでいる自分。大学の先生も余計な事を彼女に教えてくれたものだ。暴れてもいない人間を押さえつけて、手錠なんて掛けちゃったものだから、警察も引くに引けなくなってしまっているのがよく分かる。

繋がれた右手は宙に浮いているので、かなり疲れて来た。20分程経っただろうか、確か、指紋と写真を撮られたと思うが、その後の記憶の方が強く、よく覚えていない。

とにかく、またどこか他の場所に連れて行かれた。壁は相変わらずコンクリートブロックで、短かく狭い廊下の先に一つ机があり、そこに黒人の警官が一人。左の壁には公衆電話。廊下はその机がある所から90度右に曲がって、まだ奥がある様だったが、その先は見えない。

まず、手錠を外された。

”所持品を全てこの袋に入れろ。ベルトをしていたら取れ。何か紐状の物は持っていないか?”

財布、時計、ベルトを、何やら数字が書いてある半透明の袋に入れた。

”くつ紐があるだろ、くつ紐が!”

”あ、これも取るんですね・・・”

で、この作業は何のために? と思いながらも言われた通りに従った。

確かその時だと思う、右手の甲に黒いマジックで、袋に書かれている物と同じ番号を書かれた。

”827" 


”会員番号827番、ウチダ ヒロキです。特技はケン玉です。ガンバリますので、皆さん応援してください。”


何ていうおふざけは、実は全く考える余裕はなかった。


”お前には一回だけ電話を掛ける権利がある。掛けたければ、そこの公衆電話から掛けろ。”

おぉ、これで外とつながる!

実はこの1週間前に新しいアパートに引っ越し、同じ学部の大学院に通っていたアメリカ人のベンと、韓国人のジンと一緒に住みだしていた。そうだ、いつも遅くまで起きているジンに電話して、何が起こっているか伝えておこう。警察署の外で待っているに違いない山崎が、もし家に電話をして来たら、ジンから山崎に説明しておいてもらえる。

少しホッとしながら壁に取り付けられている公衆電話へ向かった。確かお金を入れずに電話が掛けれたと思う。受話器を持ち、ボタンを押そうと思ったが、しまった、引っ越したばかりで新しい電話番号を覚えていない。紙に書いた物を財布に入れてあったので、

”あのー、実は引っ越したばかりで番号を覚えていないので、財布の中にある紙を見たいんですけど。”

”何?財布?もう係りの人間が持って行ったからここにはない。”

”でも、それがないと番号が分からないんですけど。”

”Too bad. (それは残念だな)"

Too bad って、おい。人の税金で飯食ってるくせに、それはないだろ!と心の中で叫び、意気消沈。チーン。受話器を置いた時の音も、チーン。

”どうするんだ、掛けるのか、掛けないのか?” 

当時は、今みたいに携帯がそこまで普及していなかったので、電話番号を知りたい時は、家にあるアドレス帳などを見るしかなかった。他に覚えている番号もなく、結局、外と連絡を取る事を諦めざるをえなかった。

”掛けないならこっちに来い。”

黒人警官が廊下の先の、右90度に曲がった先を指さす。

言われるがまま恐る恐る角まで来て、回れ右、をするとまた廊下が暫く続いていた。ただ、今までの廊下とは何かが違う。左側の壁は今まで通りコンクリートブロックなのだが、右側の壁が・・・

檻 

(猛獣や罪人が逃げないように入れておく、鉄格子などを使った頑丈な囲い、または室。)

Yahoo Japan 辞書より引用


これは、つまり、留置所?


”ガチャガチャ、ギ~。 入れ。”

ご丁寧にドアを開けてもらったその部屋は、8畳程の大きさで、床も含め全て灰色のコンクリートに覆われ、ステンレス製のベッドが一つと、何の囲いも無いむき出しのステンレスのトイレが一つ。

(スケッチを書いてみた。)


逃げる訳にも行かないので、言われるがままゆっくりと中に入った。

”ガシーン!”
という音と共に、背後で鉄のドアが閉まり、コツン、コツンと警官が立ち去る足音。

さて、問題だったのは、トイレが汚かった事やベッドが固そうだった事ではない。柵の下の方が少し錆びた感じになっていた事でもなければ、壁の端が少々欠けていた事でもない。

問題だったのは、


その部屋には既に10人程の先客がいた事だった・・・


奥の壁に気だるそうにもたれかかる、南米からいらしたらしき方々。部屋の中央にお座りになられている黒人さん達。そして極めつけは、今でも忘れない、ベッドの上を一人で堂々と占領し、ひざを立ててどっしりとお座りになられている、体中タトゥーだらけのどう見てもこの部屋の ”主” の様な方と、そのすぐ下に主のサポート役としてお座りになられている、どこから見ても悪そうな、助さん、角さん。

そう、そこは犯罪者のたまり場、雑居房だった。

前方の全ての角度から送られる鋭い視線が、閉められたドアの前に立ち尽くす僕に グサグサ と突き刺さる。固い地面に ズリッ と誰かの靴底が擦れ、スチールのベットが ガシッ と音を立てる。ヒソヒソ と聞こえる誰かのスペイン語と、意味が分からない チッ という舌打ち。

ただ事ではない緊迫感。

体は硬直していたが、必死に動かした脳で本気で思った。

”主に、きちんとご挨拶した方が良いのだろうか???”

この場で、ニコッとするのもおかしいし、ふてくされた様な態度をとるのも危険に思える。こういう時人間は、”素” 又は ”無” になるのが一番良いと、この時学んだ。

取り敢えず、皆さんから少し離れた所に小さく空いていた柵と壁の角に体育座り。
世間を知らない健気で未熟な23歳のアジア人を、思いっきり演じる事にした。
しかし、どう頑張っても、何かの間違いで捕えられてしまった、可愛そうな可愛い小さな男の子には見えない。184センチの身長を、この時ほど恨んだ事は無い。


コンクリートの床の冷たさが、ジーンズを通して伝わって来る。時々そっと足を延ばしては、柵の外を眺める。鉄の棒が15センチ間隔程で続く柵。その鉄の棒は直径4センチ程。そのたった4センチの向こう側には、さっきまでいた廊下。

そっと手を出して廊下の床に触れてみる。普通に触れた。

でも、手が届くその場所に、自分は行く事が出来ない。

目の前にあるその場所はまだ警察署内で、決して自由な場所ではない事は知っているが、そこへすら行けない。

この事を認識してしまった時、ベットの上の主など比にならない程の不安と恐怖を感じた。

”考えちゃダメだ。とにかく、何か他の事を考えないと。”

初めて味わった特殊な不安感。

柵の外を見ない様に、目を閉じた。




時計は無い。

時間の流れは、だんだんと痛くなる足や腰と、体の冷え具合で感じた。





一体どれ位経っただろうか、柵の外に一人の警察官が来た。

”O...Ochaida(オチャイダ)はどいつだ?”

誰も答えない。

”827. ナンバー827, オチャイダ。いるか?”

皆自分の右腕を見る。

ん? 8.2.7?

あ、自分だ。

”Yes, here."

”出ろ。”

え?出してくれるの?マジで!?

この柵の外に出してくれるなら、ウチャイダ だろうが オチャイダ だろうが、ど~ぞお好きに呼んでください。でも、何か尋問とかされて、終わったらまた戻されるかも知れないという不安があり、まだ警戒心は持っていた。

そのままその警官に付き添われ、今までとは違う雰囲気の、黒いタイルが貼られた白い壁の廊下を歩き、大きな階段に出た。その階段の下の部屋の右側には窓口が幾つかあり、その一つには電気がついている。左側には少し開いた両開きの木製のドアが。階段を降りていると、生ぬるい風を感じた。春と秋がとても短いシカゴでは、6月ともなると夏になる。

外の空気! 

”あそこの窓口で、預けた物を返して貰いなさい。”

”え? 帰って良いんですか?”

”そうだ。”

”家に?”

”柵の中に戻りたいのか?”

”めっそうも御座いません!”

この時は、かなり嬉しかった。やっぱり間違いだったとか言って呼び止められたら、たまったもんじゃない。所持品を袋のまま受け取り、その場で指で強引に開くと、取り敢えずベルトをし、くつ紐と財布をポケットにつっこみ、腕時計をしながらそそくさと外へ続くドアへと向かった。

自由だー!!!。外に出てしまえばこっちのもの。さっきまでの経験を、余裕ぶっこいて笑い話にして皆に話してやるぜ~!

”お勤め、ご苦労様でした。”
”お迎え、ご苦労。”
なんてところかな!


山崎~~~!


や~ま~ざ~き~~~!



や~ま・ざ・き・・・くん???



え?


シ~~~~~ン


山崎どころか、猫一匹いない。時計を見ると午前5時前。

真っ暗。そして、ここは、

どこ?

笑い話にするつもりが、まだ続くかこの悲劇。

電気のついていない民家が並ぶ暗い道の上で、俗に言う、右も左も分からないという状態。一難去って、また一難。帰れない。警察もひどい。こんな時間にシカゴの訳も分からない場所にほっぽり出して、強盗にでも遭ったらどうするつもりなんだ?檻の中とは違う不安を感じながら、歩けば大通りに出るだろうと思い、とにかく歩き出した。しかし、歩いても歩いても大通りが出てこない。暗い住宅地の道を、周囲を警戒しながらとにかく歩き続けた。

暫くすると一台のタクシーがこちらに走って来た。喜んで手を上げる僕と、ギョっとする運転手。
運よく止まってくれた。

”え~っと、ベルモントっていう道、分かりますか?取り敢えず、ミシガン湖に出て貰えますか?”

”あぁ、OK。それはいいけど、こんな時間にこんな所で何してるんだい?酔っぱらってたのか?”

さっきまで留置所にいました等と言うと、犯罪者だと思われて怖がられても困るので、友達の家に行っていた事にした。シカゴはミシガン湖のすぐ横に位置するので、東の端は必ず湖。とにかく湖に出てもらえれば、後はどうにかなる。取り敢えず家には帰れたが、自分がどこにいたかは、今でも分からない。




日が高くなった頃、山崎から電話があった。

”おい!こら!普通警察署の前で待っててくれたりするだろ!?”

”いや、そうしたかったんだけど、警官に、”帰れ。お前、酒飲んでるだろ。飲酒運転でお前も捕まえるぞ!”って言われてさー。やっぱり自分の身を守らないとさー。” (当時のイリノイ州は、今程飲酒運転に対する規制が厳しくなかった)

3年前に、日本で7年ぶりに山崎と再開した時、またこの話で盛り上がった。


結局、その後分かった罪名は、Gang Loitering (ギャング・ロイタリング)という物で、夜中に集団で騒ぎ、警官にたてついた事に対する罪らしい。まぁ、騒いでいたのは一人の女の子だけなんだけど。アメリカでは全て裁判所で完結するので、その後、裁判所に呼ばれた。他の犯罪者と一緒に3時間程、法廷内のベンチで名前が呼ばれるのを待ち、やっと自分の名前が呼ばれて裁判官の前に行くと、隣にあの時の手錠を掛けた警察官が現れた。

裁判官:しばし書状を黙読。
で、

”何か言いたいことはありますか?” と僕に。

”Me? No, I don't."

裁判官:”Dismissed.(解散)"

警察官: スタスタスタ。


え~?それだけ~?



実際、犯罪の多かったシカゴでは、この程度の事は何でもない事で、警察官の少々横暴にも思えた態度も、自衛の為には必要不可欠だったのかも知れない。まぁ、決して自慢出来る話ではないが、珍しい体験をしたので今回書いてみた。もちろん、後にも先にも、留置所に入れられたのはこの時だけ。


さすがにちょっとクロップしたけど、その日家に戻ってからジンが撮ってくれた写真。




(In case you are wondering, this is a photo from 1995, so no worry.)



2015年4月8日水曜日

アメリカ体験記 - 2: 続・シカゴ警察 会員番号827番 - 友達は選ぼう

前回の続きを書こうと思う。


”ガチャリ、ガチャリ”

と、テレビや映画でたまに聞く音。
冷たく、固く、重い何かが、後ろに回された両手首にはめられた。
それが手錠だと、すぐに分かった。

周りを見ると、何十人もの見物人。背後にはどうやら二人いる様だ。そう、ジーンズにTシャツの筋肉質のこの男二人は、私服警官だった。

”こっちに来い” と、後ろ手をつかまれたまま、直ぐ近くに停めてあったパトカーの後部座席へ。

”狭い...”。前後の席の間には、上部が鉄の格子になっている間仕切りがあり、真っ直ぐにきちんと足を揃えて座ると、ひざがそれにぶつかってしまう。両足揃えて、俗にいうお姉さん座りもちょっとおかしいので、足を開いて座るしかない。

後ろ手に手錠、両足を大きく開いて座席の背もたれにもたれかかる。
どう見ても ”ザ・犯罪者” である。

後部座席イメージ

しかし、実はとても冷静だった。アルコールは飲んでいたが、特に酔っている訳でもなく、自分は何も法を侵す様な事はしていない。走り出したパトカーの中で、柵の向こうに見える黒光りしたショットガンを眺めていると、

”何があったんだ?” 助手席の警官が尋ねた。

”車のドアを開けたら、たまたまちょっとぶつかってしまって。そしたらあっちの運転手が、急に降りて来て殴りかかって来たんです。僕は手を出していませんよ。”

”殴られたのか?”

”首に当たりました。とにかく、僕は何もしていないんですけど。”

場の空気を和ます為にも、”やれやれ” という感じで、ゆっくりと話した。
20年程前の話なので今はどう変わったか分からないが、残念ながら、白人ともめ事になば、シカゴでは有色人種が不利だった。殴りかかって来た白人の男は、そのままバーに飲みに行ったらしい。

100メートル程走った後パトカーは角を曲がり、誰もいない墓地の横の路上で停車した。

確か、ここの辺りだと思う。




”降りな。” と言われパトカーから降ろされた。一人が自分のポケットを探りながら後ろに来て、手錠のついた腕を軽く引っ張った。

”お、はずしてもらえるのか。そりゃそうだよな、何もしていないし。” と思いホッとしていると、
その警官がもう一人の警官に、

”チッ、手錠の鍵を忘れちまった。お前持ってるか?” と。
”いやー、俺も持ってないぜ。”

え~っと・・・もしこの場で僕が急に心臓発作を起こしたり、急に隕石が落ちて来たり、又はとっても頭が痒くなったりした場合・・・どうするおつもりですかね? など、イライラしだした警官二人に聞ける訳もなく、かかしの様に静かに立っていた。

”今、無線で手錠のカギを持って来てくれる様に頼んだから、もう少し待ってろ。” と何故か命令されたので、
”Yes, Sir." と、一応丁寧に答えておいた。

と、そこへ、二つのヘッドライトが角を曲がってこちらへやって来た。”お、早いじゃん!” と少し喜んだが、よく見るとかなりスポーティーな車。

”なんだ、山崎か。でも、見捨てないでついて来てくれたのね。さっきは迎えに来ない方が女の子二人と楽しめるかも、とか思ってごめんよー” と思っていると、近くまで来て止まった彼の車から、女の子の一人が降りて来て、遠目から少し大きな声で日本語で僕に話しかけてきた。

”ねー、何かしたの?何もしてないよね?私、この前大学の授業で習ったんだけど、アメリカで手錠をかける時はその前にきちんと理由を伝えてからじゃないといけないんだよ。理由言われた? なんなのこれ!? 許せない!”

”いや、でも、今手錠を、”

”信じられない!”

”いや、手錠のカギをさ、”

冷静な僕を横目に、憤慨したその子は、警官の一人に英語で荒々しく文句を言いだした。

”うるさい。あっちに行ってろ。お前たち、これから話す時は俺たちが内容が分かる様に英語で話せ!”

”何言ってるの!だから、手錠をかけた理由をちゃんと伝えたの!?”  その子が英語で問いただした。

”うるさい、あっちへ行ってろ!”

警官の言葉を無視し、その子は持っていたデジカメで、パトカーのナンバープレートを撮り始めたではないか。

いや、今手錠のカギを待っているだけだから、事を荒立てないで~~~~という思いもむなしく、

”何してるんだ!あっちへ行け!よし、それまでだ!” と警官の一人が僕の後ろ手をつかみ、まだ少し自分の温もりが残る、懐かしい後部座席へと押し込んだ。

そして、パトカーは急発進・・・

昼間でも来た事のない場所は、夜見るとただの暗闇。15分程走っただろうか。パトカーが止まった場所は、とある警察署だった。

署内に連行され、廊下の突当りにある、コンクリートブロックで囲まれた3畳程の広さの小さな場所へ連れて行かれた。壁には手すりが付いていて、その下には木のベンチ。 ”なるほど、待合室か。手すりを付けてあるなんて、お年寄りに優しい設計だ。今後プロジェクトの参考にしよう。” と感心していると、後ろ手の手錠を外された。やっと自由になれた! と思ったのもつかの間、

”ガキーン!” 手錠の片側は、ツルツルの鉄の手すりに。

”ガチャリ” もう一方は、スベスベの僕のお手てに。

ふ~・・・

少しすると、見るからに常に問題を起こしそうな風貌の、同い年ぐらいのアジア人の仲間が出来た。お互い初対面な上にシャイなので、黙って手すりに繋がれていた。

それ程長くない廊下の反対側には部屋があり、そこから大きな笑い声が聞こえる。

”バシーン!バシーン!” 笑い声の間に聞こえる何かを思いきり叩く音。

そして、そこから眼鏡をかけた、家にいたら絶対かさばりそうなサイズの太った警官が、のしのしとこちらに向かって歩いて来た。ん?何か手に持っている?あ、それ、知ってる!日本で中学生の時に友達と近所の裏山で拾ったエロ本でも見たし、今住んでいるアパートの傍にある、ハードゲイ用のアダルトグッズストアのショーウィンドーでも見た!

それっ、

皮で出来た、SMプレー用のお尻叩くやつじゃん・・・

- 参考資料 -



その太った警官は、尻叩き棒で壁をバシバシ叩きながら近くまで来て、まずは後から来たアジア人に、

”お前、前にも見たな。今度は何した?このタトゥー覚えてるぞ。他にもあるか?” 等と低い声で尋問をし、その後、ジロリと僕を見るとこちらに歩いてきた。

”お前はタトゥーはあるか?” 

と低い声で顔を近づけて来た時に何か匂った。
”ゲ、この警官、酒飲んでるんじゃないか?” 

”いえ、ありません。”

ジロジロと人の顔を見た後、
”なんだこの眉毛は!こんな風に整って眉毛は生えない!何かしてるな!?”

昔から眉毛が太いので、色気づいてからは整えてはいたが、まさか警察沙汰になるとは。

”で、お前は何をした?”
”何もしていません。”
”何もしていない奴はここへは来ない!”
ごもっとも・・・

その太った警官は元いた部屋に戻り、遠くから ”おい、あそこにいる背の高いの、何でここにいるんだ?” と尋ねているのが聞こえた。



のし、のし、とまた僕の所に戻って来た警官は言った、

”お前の友達が、お前がここに来た理由だ。良い友達を持ったな、ハッハー。”




次回、続・シカゴ警察 会員番号827番 - 届きそうで届かない場所



2015年4月7日火曜日

アメリカ体験記 - 2: シカゴ警察 会員番号827番

シカゴと言えば、ブルースとジャズ。有名なブルースバーやジャズバーがあり、その中でも1900年代初頭、禁酒時代のギャングとして名高いアル・カポネが足繁く通ったとも言われるグリーン・ミル (Green Mill)はジャズバーの老舗だ。店内の写真リンク  

それは、ダウンタウンから車で30分程北上した、当時はまだ少し寂れていたエリアにあった。古ぼけたレンガ造りの建物の壁に、電飾に囲まれた緑色の、Green Mill の文字。大学3年のある金曜日、同じサッカーチームで仲の良かった山崎(仮名)と、女友達2人を連れて、夜9時過ぎに山崎の新車カマロで向かった。

薄暗いバーの中には歴史を感じさせる長い木製のバーカウンター。その奥に丸いブース席があり、一番奥に決して大きくはないステージがある。白人と黒人で埋め尽くされた店内で、頭と目が黒いアジア人は自分達だけ。シカゴでは決して珍しくない状況だったし、そのマイノリティー感が自分のアイデンティティーを築き上げてくれ、日常茶飯事の差別すら、周りの人とは違う事への特別感として "アメリカで生活している" という実感を常に与えてくれる刺激だった。

2時間程ピアノ、ギター、ベース、グラスの音と人々の熱気を堪能し、バーを後にした。店の前は、バーから溢れた人と、今から飲みに行く人、迎えに来た車や駐車スペースを探す車でごった返していた。山崎が車を取りに行っている間、3人は素人ながらの音楽の感想などを話しながら山崎の迎えを待った。

”このまま山崎が迎えに来なくても楽しいかな~” 等、悪い妄想をしながら。

残念ながら、5分程で彼の黒い、2ドアのスポーツカーが到着。女性二人を後部座席へ乗せる為、大きなドアを開け、前の椅子を倒す。

その後、自分も助手席に乗り込もうとした時に事件は起きた。

”コツン”

開いた助手席の扉の先が、隣に停まっていた、大き目の白いピックアップトラックの運転席のドアに軽くぶつかった。本当に軽く、”コツン” と。

すると、ガチャ! と運転席のドアが開き、中から40代程のかなり体格の良いデカい白人が出て来た。

と同時に、いきなり顔面めがけて右手で殴りかかって来たではないか!

当時はまだ俊敏な23歳。ちょっと歩いたら足の筋をおかしくしてしまう、現在の42歳の初老とは訳が違う。サッと身を引き後ろに避けると、その拳はブンッと喉仏をかすめた。二人の間には山崎の新車の大きな黒いドア。

”ドアを傷つけたらいけない。” こんなデカい男に対し殴り返す気など全くなかったが、取り敢えずドアを閉め、二人の間の壁を失くした。

人類皆兄弟。”精一杯の笑顔で謝れば話は通じる” と思った瞬間、いきなり背後から両腕を取られ、山崎の車の後ろに引きずられ、トランクの上にうつ伏せに押し付けられた。


やばい、この男の仲間かー!? 絶対絶命!







”ガチャリ、ガチャリ”



ん...?



次回、続シカゴ警察 会員番号827番


アメリカ体験記 - 1: ゲイタウン

気が付いたら最近全く更新していなかった。
あとちょうど一か月でこの国での生活も25年目に入る事だし、ものを書くのは昔から好きなので、これからは、この25年間で体験した事でも気が向くままに書いてみようと思う。



19歳になる6日前の5月、シカゴに渡米した。アメリカに来た当時の事は、2008年にこのブログに書いた記事があった様だ。

始めの一歩
http://hirokiuchidadesignlab.blogspot.com/2008/08/blog-post_30.html 

始めの一歩 - 2
http://hirokiuchidadesignlab.blogspot.com/2008/09/blog-post.html 

 
1994-5年。シカゴのゲイタウンから1ブロック離れた古いレンガ造りのアパートの3階に、体長60CM程のシェットランド・シープ・ドッグと、体長2CM程の多くのゴキブリ達と一緒に住んでいた。夜寝る時は、腹の上にはいつも犬の頭、顔の上には時々ゴキブリ、という状態。部屋は6畳+キッチン・バス。アメリカではFUTONと呼ばれる、厚めの体育マットの様な敷布団を部屋の角に敷き、その横に製図用の机を置くと、殆どもう隙間はなかった。

Google Mapから取った、当時住んでいたアパート。




誰が撮ったのかは覚えていないが、そのアパート内で撮った写真を見つけた。





上の階はアジア人のニューハーフで、隣の部屋は白人のゲイカップルが住んでいた。

ある日ゴミを出しに、キッチンに付いている建物の裏へと続く扉を開けると、目の前に大きな女が立っていた。6cm程ありそうな赤いヒールは、黒いレースのミニスカートから伸びた筋肉質な足の先を申し訳なさそうに包み、横に広がったパーマがかかった髪の毛は、あごひげが生えた、ただでさえ大きな顔をさらに大きく見せ、真っ赤な口紅は小学生の時に恐れた、口裂け女を彷彿させた。グローブの様な両手で、あふれんばかりのコンドームが入った大きなかごを抱えていたその女は、ただのお隣さん。

そこは、女性にとっては比較的安全なエリアな上に、クラブ、シアター等、若者文化が発展していた地域だったので、知り合いの多くは皆その辺りに住んでいた。

ただ、男にとっては少々危険な時もある。

夜遅くにバスで学校から帰宅した時など、時々道の反対側で、自分と全く同じ動きをする男に出会った。自転車に乗っている奴は速いのでたちが悪い。”つけられている” と感じた時は、試しに何気に足を止めてみる。向こうも止まる。歩き出すと、向こうも自転車を漕ぎ出す。住んでいる家を知られたくないので、自分のアパートに逃げ込むわけにはいかない。走っても勝ち目はない。当時は携帯もないので、誰にも連絡できない。取り敢えず明るい通りへ向かい、何度も角を曲がり、最後は必死で走ってアパートの入口に着き、完全にまいたかどうか確認しようと後ろを見ると、50メートル程離れた所から、その男がジッと睨んでいた。


次回、シカゴ警察 会員番号827番


関連ブログ記事

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...