2020年2月11日火曜日

感情的なインテリア

2年半放置しておいたブログを、いきなり思い付きで書き出す、という暴挙に出る。

最近、面白いと思える物に殆ど出会わない。多くの物は、技術の進歩に伴って発達したものを、可愛くしたり、格好よくしたり、というものばかり。

俺は建築とかインテリアのデザインをやってきたから、それに関して言うと、感情に、気持ちに訴えてくるデザインがないし、それを求めるクライアントもいない。

”えっ?デザインって、感情に訴える必要あるんですか?” 

って言われそうだね。

その需要は無いのかもね。まぁ、こんな事言っている俺が今までやって来た物で、実際、感情に響く物は殆どないけどさ。結局、クライアントの為にって考えると、いろいろと削ってしまう自分がいたからね。

でも、俺はインテリアデザインはアートだと思っているから、そこには表現が必要だと思う。

”何を表現するの?”

それは、人間が生まれながらにして持ち合わせている、”感情” が表現されるべきものだと思う。

歌を聴いて涙を流す時がある。
ダンスを見てワクワクする時がある。
詩を読んで切なくなる時がある。

インテリアデザインで、そういう事を感じる時は殆どない・・・

のれんをくぐると、とても切なくなる寿司屋。
満員電車に揺られて、たどり着くと、ウキウキして笑顔が止まらなくなるオフィス。
立ち寄ると、愛おしくて涙が出てきてしまうカフェ。
覗いただけで欲情してしまうスーパーマーケット。

こんなのを、インテリアデザインというアートの媒体を通して表現したい。
だめか? 

安全、無味無臭、人畜無害、低価格でシンプル・・・ まっ、そういうのが一番受け入れられるのは分かってるけど、中にはあってもいいと思わない?

大人ぶって話す時はさ、感情的になると良くないと思うし、ビジネスでは特に本音を隠し、機械的で論理的にならなければならない場面が殆どな日常の中に、無理やり感情的、感傷的にさせられる場所があってもいいと思う。

折角、人間に生まれてきたんだから。

あとはこれを、どうやって表現するか。直接的なイメージを使うと芸がない。切なくなる寿司屋を作るために、切ない感じの写真を飾るとかはただのデコレーションで誰にでもできる。

俺が興味があるのは、それを、点や線の組み合わせ方、壁と床や天井とのつなぎ方、材質の手触り、肌で感じる室内の空気の流れや温度の変化、椅子の高さや硬さ、光の線や反射、等々で表現する事。

あとは、そこを訪れた人たちが、自分たちなりのドラマをそこで作ってくれれば良い。

hirokiuchidadesignlab.com




2018年6月5日火曜日

手で描くということ - Hand Drawing

最近思う。コンピューターで作られる建築やインテリアの3Dイメージが、あまりにリアルになり過ぎていてちょっと気持ちが悪い。デザインしている段階で、まるでもう完成して写真を撮ったかの様に見せる事が出来る。実物を作る前に完成図を見せる事が出来るので、クライアントを安心させる為に僕もよく使うけど、その画像自体には個性も温かみもない。

コンピューターは好きなので全てを否定はしないが、人間がデザインしているのに、途中から機械に乗っ取られてしまった様な感じすらする。デザイナーの ”手” は感じられない。そのうちAIが勝手に3Dにしてくれる様になるだろう。

一般的には、その方がプロフェッショナルっぽく見えるし、分かり易いのだと思う。

でも、出来てもいないうちからあまりに実物の様に見えるので、つまらない。
クリスマスの前にプレゼントの中身が分かってしまった、あの時の様に...


絵自体に個性もドラマも無い。
バレンタインの日にもらった、あの義理チョコの様に...


だから今、自分の”手”を使って描いている。思っている事を言葉以外で表現する事は、難しいけれどもとても楽しい。僕が描いたものに対して、こっちが思っている通りに理解してくれなくても問題ない。言葉で話したって伝わらない物は伝わらない。見た人、聞いた人が自分の思った通りに理解してくれればいい。皆、生い立ちも育った環境も違うのだから。色々な見方があった方が楽しい。そして、それで当然。

スケッチブックに鉛筆とペンで描いたり、
Bedroom 

Bar

Bathroom


鉛筆とペンで書いた後に、Photoshopで一部に色を付けたり、
I need some fresh air - 外の風にあたって来る 

I'm leaving! - もう帰る! 

Waited so long - 待ってたよ

鉛筆画とiPadに描いた物を重ねたり、
 Piano concert stage concept.


始めからipad上に描いたり。

 Bitter Coffee

Late Afternoon Tea

You complete the scene - 貴女がいて、初めて成り立つ空間

Sunset Cafe

End of a day 

Engagement? 

 Time alone - rather be alone than waste time with you - 
「下らない男といるぐらいなら、一人の方が好き。」

Yes, you are the main - 
インテリアはバックグラウンド。
メインは私。


そこに一つの物語やドラマがある様な絵が好きで、よくそういう絵を描く。
僕が思うインテリアデザインって、そういう物。そこにいる人の、その時間を演出してあげる為のデザイン。

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2017年7月2日日曜日

中国出張 - 蘇州 新光三越

6/1-6/23までという長期日本出張中に、今回のメインイベントとなる、中国の蘇州 (Suzhou)へ行って来た。上海で迎えの車に乗り、西へ1時間。着いた場所は、近代的なビルが立ち並ぶビジネスエリア。

建設中の高層ビル

 蘇州文化芸術センター



巨大なコンベンションセンター(写真はほんの一部)

ホテルの部屋から見えた、中国へ行く度に驚かされるコンドミニアム群。
ここのお値段、日本円で1億円前後・・・

泊めて頂いたハイアットの吹き抜け

ホテルから10分も歩けば金鶏湖。
大きな湖だと思っていたが、地図を見るとこれでも小さい湖の一つ。



ホテルの目の前に堂々と建つこの建物が今回の目的、"新光天地"。






台湾の財閥、新光グループが日本の百貨店の三越と共同出資で1991年から"新光三越" という百貨店を台湾国内で展開しており、そこから中国本土へ”新光天地”として進出した。そのうちの一つが、水の都、蘇州に2年前にオープン。7階建てのデパートと、20数階建てのオフィスタワー。ロサンゼルスで建築を学んだ新光の社長が、自身の想いを形にした建物と伺った。




このブログにたまに出てくる、ロサンゼルスで知り合った才女のお友達、Mさん(本名、真智子さん)がこの新光グループの社長さんご家族と昔からのお友達、という事で2年前のオープン以前からずっと色々とミーティングを重ねて来た。新光天地の顔とも言える一階部分に、新光初の自社経営となるセレクトショップエリアが作られた。彼女は伊藤忠時代に培った経験と実績で、主にアメリカの気鋭なファッションブランドとの交渉、商品の目利き、輸入、そして販売の統括を任されている。日中のハーフの真智子さんは蘇州生まれなので、ここは彼女の故郷でもある。

オープン以前から、一階部分のマスタープランなど真智子さんと一緒に色々と案を出して来たが、大きな会社の様々な政治的理由で話が進まず、僕から見ると全く望ましくないレイアウトとデザインで2年間が過ぎた。その後、真智子さんと小規模や大規模の改装の話を重ねてきたが、それも進んだり止まったり・・・

きちんと契約を結ぶまでは行かない。と言い続けてきたが、いい加減面倒なので、”中国旅行だと思って、取り敢えず一回見に行くよ” という事で今回行って来た。

クライアントが大企業でも特に気負いしないのは、20代の時にGary Lee PartnersやSOMで、ドイチェバンクやマッキンゼー・アンド・カンパニー等々の大きなプロジェクトの隅っこにいさせて貰い、ミーティング等を見させて貰っていたお陰だと思う。特にSOMのSan Francisco オフィスでは、北京オリンピックに合わせて数多くの中国のプロジェクトをデザインをさせて貰った。どちらの会社も、入る時に ”将来独立する予定なので、色々と盗ませてもらいます。” とはっきり言って来たので、本当に良い教育をして貰った。有難い。

内装の一部。

本物の植物で覆われた壁。


 かなり広い、自営のセレクトショップエリア






2階から見下ろしたところ。
1階中央には化粧品ブランドのブース。


7階のレストラン街にあるイタリアの老舗、Cafe Florian。
これは驚くほど豪華に作られている。
ストロー1本までイタリアから輸入しているらしい。




2階にある和食レストラン。
副社長さんが元々三越にお勤めだった日本人の方で、
このレストランで夕食のお誘いを受けた。
店の作りはとても豪華。食事はノーコメント。


地下のフードコートのランチ時間。
運が良ければ空いている席を見つけられる、というぐらいの盛況ぶり。
飲食系の売り上げはとても良いらしい。



さてさて。店内を歩いているとあちこちで感じられる違和感。どんなに良い場所に大きな格好の良い建物を建てても、結局使うのは背の高さが5mの大男ではなく、多くはたったの1.5-1.8m位の人間。目線で見える物の形や明暗、聞こえる音や漂う香り、手で触った感触、人の動作に合った物の配置等が建物自体と不調和を奏でると、ただただ町の中に大きな空っぽの箱、又は昔のコピーが残る。だからインテリアデザインは大切だと信じている。

あまりここで問題点等を公表する事は好ましくないので詳細は省くが、フロアのディレクターの方に一階部分のマスタープランのやり直しと、新たなレイアウトの提案をさせてもらった。

今回は、折角蘇州まで来たのでその場にある物で出来る範囲の修正をしよう、という事に。社員の方の殆どは中国語しか理解できないが、中には日本語を少々、又は英語を少々、という方々がいらしたので、日本語、中国語、英語が飛び交う。真智子さんはそれら全てをほぼ完璧に話せるので、僕とも日本語で話したり、英語で話したり。中国人には中国語で通訳してくれたり。一体この人の頭の中はどうなっているのやら。

言葉が通じなくても、紙一枚あれば話が通じるのが僕の仕事。ホテルの部屋から持ってきた紙にスケッチを描いて、中国人の課長さんに見せる。

”鎖にはそれぞれライトが当たる様にした方が良いです。”

”通路の最後には必ず焦点になる物を置きましょう。”

”天井まで届かない低いパーティションを置いて、
ブランドを分ける事をお勧めします。”


不慣れな店員にバラバラに置かれてしまったブランドを、真智子さんと相談してまとめたり、人を奥まで引き込むためにジュエリーケースで道を作ったり、



女の子の服を着たマネキンを抱えると不思議な感じがしたり・・・
なんて思ってたら腕が外れて床に落ちたり・・・


倉庫に置いてあった大きなフレームを持って来てバックグラウンドにしたり、


適当だったスポットライトの向きを全て整えたり、
言葉が通じないので親指を立てて”Good!" したり、


5時間程バタバタと動き回った。店長さんにもお褒めの言葉を頂けた様で、まぁ、取り敢えず今回のつぎはぎの修正はここまで。この修正と関係合ったかどうかは分からないが、
セレクトショップエリアのこの日の売り上げは、普段の2倍だった。色々と問題は起こるだろうけど、今後、本格的な改装案を提出して前に進める予定にはなっている。


最後に、真智子さんに、蘇州の昔の街並みが残る場所に連れて行って貰った。

地下鉄は日本より綺麗。
テレビ画面に、好きな人への愛のメッセージを流して貰えるらしい。

建物は古くて表向きは情緒があるのだが、観光地化されているので物凄い人。


蘇州が”東洋のベニス”と呼ばれるゆえん。



”もう少し暗くなると、木がライトアップされるよ 、濃い緑色に・・・”
と言うので、
中国特有の不自然なライトアップを是非とも見たくないので、
裏道に入って普通の人々の生活の中を歩く。

これ、昔ながらの家屋に作られた本屋+カフェ。渋い。



裏道の所々にある、昔使われていた井戸。


3日間の中国滞在の後、横浜に泊まった。生まれは東京だが、育ったのは横浜。
よい。横浜はよい。異国情緒と文化を肌で感じられる。ギシギシしていないし、きちんと風が流れている。



今回は日本にいたのが長すぎた。知らないうちに多くのストレスを感じていたらしく、体調をかなり崩した。ロサンゼルスに帰って来て直ぐに予定されていたアトランタへの出張をキャンセルし、しばし休息。

さっき散歩してきた近所の湖。やっぱりここが一番ホッとする。
暫くここで、英気を養う。




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